英テート美術館が所蔵するラファエル前派の絵画71点を展示する「テート美術館の至宝 ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢URL】」が日本でも開催される。

ラファエル前派展

名称:「テート美術館の至宝 ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢」
会期:2014年1月25日(土)~4月6日(日)
会場:森アーツセンターギャラリー(東京・六本木ヒルズ森タワー52F)
森アーツセンターギャラリー公式ホームページ【URL


あのジョン・エヴァレット・ミレイの《オフィーリア》が観れる!
参)2011-06-15 ラファエル前派:素直に描いたジョン・エヴァレット・ミレイの素直な人生URL


 ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ハムレット』に登場する美しい水死体「オフィーリア」。ミレイの作品はその代表作といえる。
 狂気を装った彼氏にフラれるわ罵倒されるわ、ついでにに父親は殺されるわで自らも精神異常をきたし命を絶った美しい女性。このオフィーリアがなぜたくさんの画家に好まれ作品となったのだろうか。オフィーリアの作品は、大別すると感傷・狂気・水死それぞれの表情が題材となっている。しかし、感傷や狂気はいくつも物語はあるのだが、美しい水死体は彼女でなければならない。

ブラム・ダイクストラ『倒錯の偶像(Idols of Perversity)-世紀末幻想としての女性悪』(1986)
 オフィーリアは、狂気に陥ることによって、恋人への献身を最も完璧に立証し、花と等しい存在であることを示すために自分の体を花で埋め尽くし、ついには、水死して水底に沈む運命に身を委ね、それによって、女性は従属物であるとする十九世紀の男性のこのうえなく他愛ない幻想を満足させたのである


 シェークスピアが「ハムレット」を書いたのが1600年頃。オフィーリアは200年以上経った19世紀後半に脚光を浴びたくさんの絵画が描かれた。今回はそんな美しい水死体「オフィーリア」をコレクターしてみよう。

★ラファエル前派
 ヴィクトリア女王がイギリスを統治していた1837年から1901年の期間のヴィクトリア朝時代はイギリス史において産業革命による経済の発展が成熟に達したイギリス帝国の黄金期である。家庭は豊かになり精神的な平和を追求し、美術界も一般人に理解し易い作風が目立ち、ラファエル前派もこうした時代に生まれた(1848年結成)。
 ラファエル前派はラファエロ以降に確立されたアカデミックな芸術規範を退け、美しいものをあるがままに描く理念のもとに、詩情あふれた作品が作り出された。僕的に解釈すれば、美しい女性をあるがままに描けば美しいということである。


ジョン・エヴァレット・ミレイ(Sir John Everett Millais, 1829-1896)
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オフィーリア(1851-52)【
解説】【解説

 虚ろな表情のオフィーリアをリアル描き、生と死の狭間を表現している。そして、一本の枝の上にはコマドリが描かれている。そう、「Who Killed Cook Robin?(マザーグース:誰がクックロビンを殺したの?)」である。オフィーリアを殺した罪深い者は誰なのか?


★感傷主義
 啓蒙主義運動の人間感情の重視から始まった18世紀後半における感傷的女性像は19世紀には大衆化され、当時、女性の理想像は道徳であり、感傷的であることを求められた。文学や芸術は、閲覧者の琴線に触れる事を目的とし、感情豊かな女性であることが自分自身の美しさであった。

ポール・アルバート・スティック(Paul Albert Steck ?-1924)
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オフィーリア(1894)

 水底で彼女は何をかんがえているのか。彼女の表情は死して苦しみから解放された穏やかである。オフィーリアにとっても、我々にとっても彼女の死は救いになってはないだろうか。


ドラクロワ(Ferdinand Victor Eugene Delacroix 1798-1863)
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オフィーリアの死(1844)【解説

 死の直前、木の枝にしがみつきかろうじて生きているが、その表情に生気はない。死を覚悟というか、死する事に抵抗せず運命に身を任せる彼女を描いている。
 残念だが、あんまり美人ぢゃない。。。。



レオポルド・バルト(Leopold Burthe 1823-1860)
Leopold Burthe 2
オフィーリア(1852)

 同じ構図で描かれたオフィーリア。こっちは美しく官能的に描かれている。


★唯美主義運動
 イギリスにおいて1860 年代後半から90 年代にかけて、芸術や自然がもたらす美を,道徳や実用性よりも重要なものとして位置づける「唯美主義運動」というものがある。すべての面での審美性の追求という点で、絵画や文学はおろか、生活様式やファッションにいたるまで広く影響力を及ぼした。僕的に解釈すれば、美しい女性はその価値を最高位においてよいということである。


ジョルジュ・ジュール=ヴィクトール・クレラン(Georges Jules Victor Clairin 1843-1919)
あざみ
オフィーリア(アザミの中のオフィーリア)(Ophelia in the Thistles 1898)

 彼は生前・死後両方を描いており、その表情は狂気と安らかさを対照的に描いている。正気を失ったオフィーリアの狂気の表情を描く画家も多い。

コンスタン・モンタルド(Constant Montald 1862-1944)
Constant Montald 1862-1944
オフィーリア(1893)



アレクサンドル・カバネル(Alexandre Cabanel, 1823-1889)
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オフィーリア(1883)



マリー・ベルト・ムーシェル(Marie Berthe Mouchel 1864-1951)
marie-berthe-mouchel
オフィーリア(1915)



リュシアン・レヴィ・デュルメル(Lucien Levy-Dhurmer 1865-1953)
Lucien_Levy-Dhurmer_Ophelia
オフィーリア(1900)




★精神医療の見直し
 19世紀後半は欧米で精神病患者に対しての人権や精神医療の見直しから、拘束から治療への変革の時代でもあった。オフィーリアはそんな時代に美しく・感傷的に描かれていった。精神破綻した彼女を一人の人間として見る自分が美しい時代であった。

ブラム・ダイクストラ『倒錯の偶像(Idols of Perversity)-世紀末幻想としての女性悪』(1986)
 「19世紀後半に、死の間際のやつれてくぼんだ目をした美しい女たちを心配そうに看護する親や妹や娘や恋人たちが、キャンバスにたえず描かれ続けた。ヴィクリア朝の家庭をもつ男たちにとって、妻の体の病弱は、世界と神に対して妻の体と心の純潔を証明するものとなった。」



ガストン・ブシエール(Gaston Bussiere 1862-1929)
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水の中のオフィーリア(1900)



テオドール・ヴァン・デル・ビーク(Theodor von der Beek 1838 - 1921)
Theodor von der Beek 1838 - 1921
オフィーリア(1901)



 若い美女・狂気・絶望・水・死 この五つのキーワードが揃ってはじめてオフィーリアの魅力が引き出されるのだろう。どれか一つ欠けても、彼女は題材にならなかったと思う。そこには哀れな若い美女(性格OK・境遇もOK)のやむを得ない自殺(精神疾患により自殺免罪でOK)、水死体(健康体であった彼女の傷一つない遺体でOK)である必要があった。そして、彼女を美化し理解する自分も美しい。
 誰が彼女を狂人にし、殺したか?それは紛れもない彼女を美しいと見る19世紀の市民であり、現代の我々である。

 こうして、オフィーリアは不幸で狂気と化した美女の水死体で我々を惑わし、潜在的ネクロフィリア(屍体愛好)に導くのであった。。。。

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(1817-1909)
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John William Waterhouse
(1849-1917)
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John William Waterhouse
(1849-1917)
st74-78
John William Waterhouse
(1849-1917)
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Thomas Francis Dicksee
Thomas Francis Dicksee
(1819–1895)
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Thomas Francis Dicksee
(1819–1895)
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(1828-1891)
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(1886-1948)
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Thomas Francis Dicksee
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(1856-1924)
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Thomas Francis Dicksee
(1819–1895)
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